夢の島=吸殻の山

本内容は「せいじん」を対象としています。

莨評をはじめるにあたって

 

 タバコが好きでたまらない。
 ぼんやりと物事を考えるとき、読書するときに、なんとも合う。
 紅茶やコーヒー、酒に合わせてもいい。
 それは腹が膨れるということもなく、喫煙時にのみ、味として〈存在〉して、次の瞬間には何事もなかったかのように霧散していく。
 さまざまな味わいをもつタバコは、喫っていていろいろな気づきがあり、日常生活においてもひらめきをもたらす場合がある。

         *

 正直、タバコを評するにためらいがあった。
 私は『鳥とパイプと日本酒のおっさんメモ』や『Jinsen's パイプ』、『葉巻代官のシガーレビュー』の一愛読者である。かれらはすごい。
 繊細な嗅覚と豊富な知識をもっていて、常々興味深く読ませてもらい、そしてただただ学ばせてもらうばかりである。
 ほかにも『機械式時計と煙草でブログ!』も長い期間更新をつづけていて、このブログにおいてはパイプタバコのほとんどの味を確認することができる。脱帽ものである。
 これらだけでなく、ほかにもタバコを評するブログが数多くある。
 いまさら書く必要がない。それに、私は読む側の人間であって、つくづく書く才能がないと思っている。
 しかしながら、思い立ったのには訳がある。
 パイプタバコや、ヴェポライザーまたは手巻でのシャグレビューはあるものの、煙管のみに絞ったものはどういうわけかない。
 理由としては明快で、煙管専用のタバコが極端に少ないのだ。
 煙管専用タバコとして現行販売されているのは、「小粋」、「松風」、「いろは」のみ。「AMSTERDAMER ORIGINAL VIRGINIA(アムステルダマー オリジナルバージニア)」、「AMSTERDAMER BRIGHT VIRGINIA(アムステルダマー ブライトバージニア)」はシャグとの兼用銘柄なのであえて除く。
 シャグタバコで百数十種類、パイプタバコで数百種類、葉巻となると数がかぞえられないほどだというのに、この煙管用タバコの少なさである。
 レビューブログを立ち上げるほどのことではない。三種類喫ったら終わりなのである。
 かつては「小粋 出水刻」、「小粋 達磨刻」、「黒船」といったものがあったが、それもとうに昔の話。「小粋 松川刻」は近頃終売となり、「黒蜘蛛」、「宝船」、「宝船ゴールド」はメーカーの長期欠品。日本国内の貴重なタバコ農家も大幅に減少傾向にある。
 煙管は日本だけの喫煙具である。世界に流通しているのならともかく、国内だけの商売である。禁煙が進み、非喫煙者が増えた今、衰退の一途を辿っているとしても、何らおかしくない。煙管職人も日本全国で約五名ほどだという。
 タバコ文化として、後世にもパイプや葉巻、手巻、シーシャは残るかもしれないが、煙管はなくなるかもしれない。
 せめてすこしでも、「煙管」という日本の一伝統文化の継続に極微力ながら役に立てればと思い、筆を起こした。

 

* タバコ

 前述したように、現行販売されているのは「小粋」、「松風」、「いろは」のみ。
 そのうち、国産のタバコ葉が愉しめるのは「小粋」と「松風」。二種。
 非常にかなしい。
 しかし、そんなことをいったところではじまらない。
 この煙管用タバコの三種は無論評するが、それだけでなく兼用銘柄、そして非着香のシャグタバコも評していく。
 シャグは本来、手巻に用いられるものであるが、刻みの細かさからじゅうぶん煙管で喫うことができ、また紙を使用しない分、パイプ同様、かぎりなくタバコ葉そのものの味を愉しむことができる。それに、シャグ自体、新たな銘柄や種類が発売されてもいて活気があるからだ。
 煙管で喫ったときの味わいはどのようなものか、という観点で読んでもらえたらと思う。
 着香は取り上げない。個人的に、ニガテなのである。

 

* 使用道具

 

・六張煙管「竹文女持延」
・久仁煙管「槌目女持銀延」
・WECK(ガラス製保存瓶)
・ヒュミストーン
ZIPPO(パイプ用インサイドユニット換装)

 煙管は二本。それぞれ延煙管を使用。六張煙管は真鍮製であり、久仁煙管のほうは火皿と吸口が金製、胴が銀製。ともに長さは18.5cm。
 羅宇煙管でなく、延煙管である理由は、単純に掃除が楽であるというのと、その都度洗浄すれば特定のタバコの風味がつかないというのが主である。
 ながらくパイプ喫煙していた身としては、竹の質感も捨てがたかったものの、いろんなタバコをひとつの喫煙具で愉しめてしまうのは大層魅力的だった。パイプのときは、ラタキア専用、バージニア専用、着香専用で三種に分けていた。さらに、連続して喫煙すると味が落ちてしまうことから各専用パイプを複数本常備していた。……複数本とはかわいいもので、自宅にあるパイプが全部で何本あるのかは数えたくないし、知りたくもない……。
 長さと形状にはこだわりがあり、パイプであれば12~12.5cm、煙管であれば18~18.5cmが自分にとってちょうどよい。咥えたときの顎の負担が少なく、手にも馴染む。
 パイプは連続喫煙を避けなければならないため、喫いやすさを保持しつつ、持ち運びに比重を置き、12~12.5cmが理想だったが、煙管は連続喫煙可能であるため、それを考慮すると、だいたい似たような長さである豆煙管は好ましくない。その長さでは熱を帯びやすく、連続喫煙可能とはいえ、せいぜい三服ほどで味が落ちてしまう。しかし、長すぎは持ち運びに向かない。ということで、及第点として、18~18.5cmとなった。
 形状は「女持」。細身であるのが特徴である。
 これはパイプの形状でもっとも好きなのがLovatだからである。
 掃除しやすく、味わいも直接的であって良い。また、真直で細身なつくりは、デザインとしても洗練されていて、美しい。
 タバコはパウチのまま保管しない。
 海外のパイプスモーカーたちはタバコをガラス製保存瓶で保管する。それに倣って、私もタバコを保管するときは、ガラス製の保存瓶を利用している。パイプ喫煙からの名残である。なんでも、ガラス製保存瓶での保管はタバコの熟成を促すらしい。……シャグタバコは、熟成させるほど長期間寝かせておかないが。
 ヒュミストーンは欠かせない。シャグタバコの相棒である。シャグは刻みが細かいため、とにかく乾燥しやすい。また、無添加を謳うシャグは、はじめから乾燥しているので加湿しなければならない。ヒュミストーンはこれらを解決してくれる。とりあえず、水に浸したヒュミストーンを入れておけばなんとかなる。シャグをちょうど良い塩梅にしてくれるのだ。すぐに喫いたいとなったとしても、せめて丸一日はヒュミストーンを置いて寝かせておくのが吉である。
 火付は、オイルライターを使用する。火は雑につけたい。ガスライターを一時期使用していたこともあったが、何はともあれ壊れる。脆さにうんざりした。マッチは、日常的に屋内で優雅に喫える愛煙家の火付道具だと思っている。たしかに、とことん喫味を探求するなら、マッチの火に越したことはないが、外においてはまず風で満足につけられない。くわえて、煙管となると、パイプや葉巻などよりも頻繁に火を入れるため、マッチの消費が激しい。そこで、いつでもどこでも喫いたい自分は、耐久性もあり、火も安定しやすく、持ちもいいオイルライターに落ち着いた。とはいっても、もともとパイプでもこのZIPPOを愛用していた。パイプ用インサイドユニットのおかげでかなり楽である。パイプ喫煙時は、ライターを横に傾けてパイプのボウルトップを下に潜らせ、火を吸いこんで着火させていたが、煙管の場合は、金属製であるのも手伝って、火鉢での着火法よろしく上方で火皿を傾け、火を入れればすんなり燃えてくれる。着火した際、焼け切れた滓がこぼれても空洞であるため、ライター内にこびりつかず、地面へ落ちる。パイプ喫煙時より便利で重宝している。

* 喫煙法

 味を堪能するために、平均五服喫う。
 江戸の人々は、一服三口でやめるのが粋だといっていたようだが、いくらなんでもそれは物足りないのでは、と喫うたび、ひとり勝手に考えている。
 口腔喫煙。ニコチンを摂取するというよりも、タバコの味に魅力を感じているため、肺には入れない。そして、煙を吐き出すときは、口からではなく、鼻から。これはコロナウイルスに罹って、ヨリ意識するようになった。自分の場合は、嗅覚がしばらく失われたのであったが、病み上がりすぐに喫煙したとき、タバコの味が一ミリも判らなかった。判ったのは、味覚が訴える中途半端な苦味とあいまいで僅かな甘味だけである。堪えられず、喫いはじめ早々に止めてしまった。
 純粋にショックだったが、同時に、いまさらのように、タバコは嗅覚で味わうものと実感した。ゆえに、細かい味を愉しみたければ、口に煙を溜めて吐き出すのでなく、鼻へ抜くことを薦めたい。

 

 以上のような諸々で、自分の頼りない嗅覚に縋って評してみようと思う。