ツメノめ

本内容は「せいじん」を対象とし、一部過激な思想、表現を用いています。

夢記述――16th とりっぷ(2020/07/07)

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 Mと買い物をしに、商業施設へ訪れた。
 それぞれ目的とする店が違っていたため、私たちは別行動をとることにした。
 Mと別れて、カフェラウンジを横切ったとき、小太りの中年女に声をかけられ、私は同席した。かのじょは、やや醜悪な面相を備えており、化粧っ気はなかった。服装も色気とはほど遠く、見るからに安物のシンプルな長袖のティーシャツにチノパンツだった。
 かのじょは誘惑しそうな下品な視線を私の顔に当てながらこう言った。
「いつもは夜のパートナーを探してるんだけど、あなたはそうじゃなくて、ふつうに会話を楽しみましょう。……あなた恋人はいるの?」
 意外な質問に私は面喰った。
「いや……どうでしょう。いるといえばそうだし、いないといえばそうとも……そもそも恋人ってなんでしょう。ぼくにはわかりません。ただ、他人からみてそう見えるひとはいなくはないです」
「いるってことね?」
「まあ……はあ……」
「相手のことは好きなの?」
「好き嫌いではなく、ながらくいっしょにいると、そういうのを超えませんか?」
 いくらか気を取り直して私はなるべく平静を装って言った。
「あたしはそうは思わないわ。いつだって好きなものは好きよ」
 この一言で私は、おや? と思った。かのじょにあたたかな母性を感じはじめていた。しかし一方で、あいかわらず下品な視線があり、そこはかとなく品定めをされているような気もし、かのじょを信頼すべきかどうか思いあぐねた。相反する思念にふと尿意が挿しこまれた。
「ちょっとトイレに行ってきます」
 といって、私は席を外した。
 トイレを目指していた。目指していたはずだった。通路を歩いていて、私はなぜかガラス製の自動ドアを抜け、屋外へ出ていた。トイレへ行くこと、尿意があることを忘れていた。快晴だった。広大な駐車場と白を基調とするオープンテラスが見えた。私はこれといった目的もなく、駐車場の敷地に歩を進めた。
 車はまばらで、移動している車はもっと少なかった。轢かれる心配はまるでない。真向いにある駐車場の縁に、ちょっとした芝生と木々があった。そこに興味が湧き、歩いた。散策気分だった。その間、私は中年女の質問にたいしての返答が至極真っ当であったかどうか考えていた。後悔していた。ああいうふうに答えるべきではなかった。Mに失礼であるような気もし、わざわざいきなり本音を吐露することもなかったと反省した。
 芝生に足を踏み入れると、そのさらに向こうには延々と淡い青が広がっていた。
 空と海。さわやかだった。
 ここは崖だったらしい。私は海を見下ろしながら、深呼吸をした。
 瞬間、空気の波動を感じた。すこし遅れて雷鳴にしては硬質な、激しく強大な音が響いた。近い。とっさに音の出所に眼を飛ばすと、ミサイルがみえた。私は唖然とした。そして、身の危険を感じてすぐ、幹を盾に身を潜めた。地鳴り。爆発音。恐怖心を確実に募らせる、不吉な音だった。逃げ場のなさを宣告しているようだった。数瞬の間が空いて、猛烈な砂塵と衝撃波が襲った。私は眼を閉じ、幹に身体を押しつけた。飛ばされないように必死だった。木々の軋み。
 やがて止んだ。私は幹から身体を離し、商業施設を見遣った。煤煙と火。半壊。ミサイルは商業施設に落ちたとしか思えなかった。Mのことが心配になり、私は無残な商業施設へ向かおうと歩きはじめた。すると、商業施設のほうから軍服を着た者たちが現われ、駐車場の中間あたりで等間隔に横へ並びだした。私をみると、かれらのうち数名が銃を構えた。
「ヤア、オジマ! ノヌン、ヌグヤ」
 私はかれらが朝鮮人であることに気づいた。それは韓国語だった。私は言われた通り、近づかず、その場で立ちすくんだ。
「オジマ!」
 近づくな、という韓国語。近づいてなどいなかった。むしろ、かれらのほうが近づいていた。
 このままだと発砲される! と直覚した私は踵を返し、逃げた。
 逃げながら、あまりに不条理だ、と感じ、ふとこれはゲームの世界なんじゃないかとの思いが過ぎる。
 とたんに、風景がドットになった。

         ***

 商業施設から記述してみる。
 内装の感じはアリオ亀有に近かったような気がする。外観はあきらかに屋外駐車場から見た越谷レイクタウンだった。しかし、駐車場と、縁の木々や芝生の様子は、どこかのサービスエリアである。どこのサービスエリアかは語ることができない。小学生の頃の家族旅行で立ち寄ったという記憶があるばかりで、名前を憶えていないからだ。
 この〈商業施設〉という舞台についてだが、私の場合、頻繁に登場する。無意識が好んでいるのは顕著だ。よく足を運ぶからだろうか。それとも、整然とした混沌があるからだろうか。おそらく両方だろう。それに、このふたつだけではないはずである。ほかにも、舞台設定にしている要因はある。たとえば、郷愁。私は〈商業施設〉に、なつかしさを覚える。これは音楽の一ジャンルとなったvaporwaveの意図と近しいところがあるように思う。主観的な観方が許されるのであれば、そこは資本主義が芯までしみついた者のたしかなひとつの楽園なのだ。極端な話、「現代の具現化した天国」として私は〈商業施設〉を捉えているのかもしれない。はたまた、別の観方で、客観的立場に拠るのであれば、私は〈商業施設〉で三年間、働いていた。それが深く食いこんでいると考えることもできる。
 つづいて、夢のはじめのほうにのみ登場するMは当時の恋人である。かのじょに対しての想念は夢のなかで直接露わになっている。中年女との会話がすべてといえる。
 中年女はまるで見たことのない人物というわけではない。夢のなかでも、知り合いという認識が働いて、ためらわずに同席している。ただ、特定の人物ではなく、混ざっている。馴染みのバー店主の奥さんと、女児の保護者さんである。おそらく、母性の面はバー店主の奥さんから来ており、気味の悪さの面は女児の保護者さんから来ている。両名とも、年配の女性では対話の機会が多い(または、多かった)人物であるため、溶け合い、混ざり合い、ひとりの人物として創造、当てこまれたような気がする。どんなに親しくとも本音を語らないじぶんが、対話のなかで赤裸々にあいまいな思いをそのまま告白しているということは、年配の女性に甘えたいのだろうか? いや、というよりも、女性性のじぶんが露出したのかもしれない。あいまいな思いに終止符を打ちたく、夢のなかにわざわざ現われ、やさしく諭す形をとった。そうも考えられる。
 ミサイルは、7月2日の出来事から連関したものだろう。この日の深夜、隕石が飛来した。千葉県習志野市内に墜落したとのことであるが、私はこの墜落音を家のなかで聞いた。ガラス戸のガラスが振動し、硬質かつ瞬発的なーー雷にも似たーーなにか不安を感じさせる音を耳にしたのである。それが影響している。あとの事柄に関しては、宙空からの飛来→不安感→ミサイル→北朝鮮→朝鮮→韓国のつながりであろう。
 韓国軍兵士の登場や、かれらから攻撃されるとの直覚はいずれも、在日であるじぶんの立場――祖国および祖国人にたいする劣等感――が多分に作用しているのはまちがいない。
 ともかく、それらしい全体的な夢の捉え方としては、日常生活にたいする不安が、この夢においては崩壊というひとつの極端な結末を呼び出し、夢のなかではあれ、生活責任の強制的な排除という、つかの間の救済を有意識の私に与えているというのが、有意識が納得するひとつの答えなのかもしれない。