夢の島=吸殻の山

本内容は「せいじん」を対象としています。

夢奇述——6th とりっぷ(2020/06/25)

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 加藤陽菜がいた。
 かのじょはシングルマザーであった。
 かのじょは四部屋しかない木造アパートの二階に住んでいた。
 私はかのじょの部屋でお茶をしていた。
 ひさしぶりの再会らしく、なつかしい思いでかのじょを眺めていた。
 おもむろに、かのじょは、真下の住民を通報した。
 まもなくして警察がやって来、あわただしく真下の住民を逮捕した。
 なぜ真下の住民を通報したのか。
 私はかのじょに訊いた。
「ついさっき買い物から帰って来たとき、わたし見たんですよ。ひとの足」
「それがどうしたの。なんでもないことじゃないか」
「昼間ですよ。下のひと、男でひとり暮らしなんですよ。ほんとうなら働きに出ているのに。それに足、異様に白かったんです」
 警官があいさつに来た。
 加藤に感謝していた。
「下のひと何だったんです?」
 と私は訊いた。
「隣家のチンパンジーを飼育していた老夫婦がながらく行方不明になっていたのですが、どうやら下の住民はそのふたりを殺害していたようです。遺体がありました」
 警官たちがパトカーに乗って引き上げていくとき、私も加藤の部屋をあとにした。

 スラムと繁華街を混ぜたような町。白人の売春宿がある通りを歩いていた。そこの近くにココナッツ剥きの施設があった。といいつつ、ココナッツではない。ココナッツのような大きさだが、ドラゴンフルーツかイチジクのようであった。加工は熟練者が、剥く作業は若い未熟者が行っており、未熟者は乱暴に皮を剥いでいた。性欲を持て余しているらしく、白人の売春婦を雇って、裸にココナッツを塗りたくり、仕事の合間に性的遊戯に耽っていた。
 それらに好奇心が満足するまで目をやり、やがて通り過ぎる。
 長々とした高級な平屋構造の商業施設に入った。化粧品、服屋、アウトドア用品店が立ち並ぶ。意味もなく、店内に出たり入ったりしながら、歩を進めた。

 家についた。じぶんの借りている家だが、ふしぎな構造だった。四階建て。一階は空きだった。二階から四階までが私の居住スペースだった。
 二階は古ぼけた木造で洋室と和室のある混沌とした間取りが特徴的であったが、上の階にいくと、それはがらりと変わった。三階は小ぶりの大衆浴場といった趣の風呂場があり、内装はホテルのようだった。四階は床がなく、地面が敷き詰められているらしく、虫が一匹もいない植物群が鬱蒼と生茂っていた。そこに木とガラスでできたログハウスが隅に建っており、ゆったりした一人がけソファとハンモック、あと綺麗に整頓された書物群が棚に埋まっていた。さらにその屋上があったが、屋上にまでは足を運ばなかった。
 それぞれを目にし、四階のログハウス横のハンモックでしばし揺られ、のんびり時を過ごした。
 そのまま家で過ごすことなく、また歩く。
 そして職場についた。
 職場ではすぐに面談が入っていた。
 面談室では学ランを着た栗原瀬人とその母が坐って待っていた。
 私も席につく。
 かれの母は異質な容姿をしており、どこか魔女めいていて、安いプラスチック製の作り物めいた鼻と右腕を有していた。
 あいさつを済ませ、どのようなご用件ですか? と私は訊ねる。
「大学に受からせるために、この塾に通わせているんですよ? もっとしっかり勉強の指導を行ってほしいです。とくにうちの子は、こんなに通っているのに、数学の成績がいまだに上がらないってどういうことですか」
 と厳しく言われた。
 私は心の奥底で面倒だなとつぶやきつつも、やわらかく対応した。
 栗原は萎縮し、タジタジとしていた。

         ***

 やたらに彷徨しているといった印象。
 どこか一所に留まることなく、つねに流動していた。
 個人的に気に入っている箇所は、自宅の場面である。とくに四階は名残惜しい。非常に好きな空間であった。二階も捨てがたい。京都の吉田寮を彷彿とさせる雰囲気があった。
 例によって例のごとく、今回も介入してきた実在を示すと、人物では加藤陽菜と栗原瀬人、場所では職場がそうである。
 加藤陽菜はシングルマザーとして登場してきたが、かのじょは私の教室に通う中学三年の受験生である。どういうわけだか、成人として登場してきた。おとなびた性格が関係しているのかもしれない。気立てがよく、空気を読むことに長けており、少女特有の背伸び感はあるものの、物腰のやわらかさから上品さがただようような生徒である。やさしく穏やかであることから、今後苦労しそうな気配があり、それがシングルマザーとしてあらわれたのかもしれない。シングルマザーとして夢のなかで私はかのじょを認識してはいるものの、肝心のこどもは登場せず、またその気配もなかった。これは無意識界の私の作りこみの甘さだろうか。
 栗原は私の教室に勤める講師である。かれはとうに高校は卒業している年齢であるにもかかわらず、加藤とは真逆で年が若返り、大学受験をひかえる高校生の生徒になっていた。正直いって、まだかれは若い。若者といったことばが似合う服装や見た目をしている。とはいえ、こどもじみた側面はなく、むしろ苦労人らしく、落ち着いた雰囲気がある。なのに、夢では青年から少年になっていた。これは現在、かれがふたたびの大学受験を志しているのが少なからず影響しているように推測する。数学が苦手である部分も反映されている。
 ちなみに、かれの母には一度も会ったことがない。そのため、夢のなかのかれの母は完全なる虚構である。
 職場については後々語ろうと思う。このあとも、しつこいぐらいに実在の職場が夢にあらわれている。