夢の島=吸殻の山

本内容は「せいじん」を対象としています。

夢奇述——2nd とりっぷ(2020/06/16)

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 高層ビル内にいた。
 摩天楼のような高層ビルである。
 私はタキシードを着ていた。
 階上を目指していた。エレベーターで行ける最上階に着き、降りる。高級レストランばかりが並ぶフロアだった。清潔感があり、白色の大理石が照明の光をはね返し、輝いていた。床には靴が沈みこむほどのレッドカーペットが敷かれてあった。赤い看板、赤い灯篭がある中華料理店、ウェイターが物静かに佇む西洋料理屋を通り過ぎた。待ち合わせをしていたらしい。急ぎ、噴水のある広場にたどり着き、そこで清岡茉莉ともうひとりの女と会った。
「ちょっと! 遅れてるよ。はやく」
 と清岡がいった。
「ごめん」
 清岡も正装をしていた。私たちは夫婦であるらしい。
 もうひとりの女は顔を覚えていない。しかし、知り合いであるような気がする。かのじょは真っ赤なドレスを着ていた。花弁のような襞が波打ったデザインのドレスだった。かのじょはそのドレスに負けないほど、スタイルも良かった。かのじょにも夫がいた。かのじょの夫はすでに目的の場所へいるらしかった。
 清岡と女はハイヒールを履いていたが、それを気にするふうもなく、上手に駆けた。私はかのじょらのあとにつづいた。
 私たちはレストランフロアからさらに上へと行けるロープウェイ乗り場の入口に到った。ロープウェイに乗った。十人乗り用だった。かなりの広さがあった。とはいえ、乗客の姿はなく、私たち三人だけだった。フロアを抜ける。ゆっくりと上へ上へと昇っていく。
 息をつき、私は外をみた。ロープウェイの側面はすべてガラスで出来ていたため、外界の様子を探るのは容易だった。外は暗く、重量感のある靄がかかっていた。
 時刻はすでに夕方を過ぎていたようだ。そしてロープウェイは雲のなかを突っ切っているようだった。夜特有のやわらかな暗さに、それをぼかすような靄。そのなかに点々と、下界の街明がみえた。地上に星をちりばめたようだった。
 やがて、目的地がみえてくる。降りるべきロープウェイ乗り場は天井灯によって明るかった。なかが視認できるようになったとき、そこに高嶋がいるのを認めた。高嶋も正装をしていた。
 かれはちょうど相手の女性(少女?)に告白するところだった。
 かのじょは、長くきれいな髪を垂らしており、前髪は横一直線に切り揃えられていた。整った顔立ちをしていた。華奢で、胸のふくらみはほとんどなかった。もしかしたら、少女らしさを強調させる真っ白のワンピースを着ていたからかもしれないが、清楚で、繊細な感じがした。
 私はこの現場の結末を見届けるために、ここを訪れたことを思い出した。ロープウェイはまだ着かない。私はガラスに張りついた。もどかしかった。
 すると、聞こえるはずがないのに、高嶋の声が聞こえてくる。
「あの……こういうの慣れなくて……すみません……。——好きです。ぼくと……結婚してくれませんか?」
 高嶋は目を伏せていた。声がこわばっていた。
 少女は落ち着いていた。やさしく微笑んだ。

         ***

 実在するのは、清岡と高嶋のふたり。
 清岡はかつての恋人である。夢においてとくに目立った行動はなく、いかにも姐さん女房といった感じで私を牽引した。目立った話はこれといってない。
 いっぽうで、高嶋であるが、かれが出てくるとは、それも告白する人物として登場してくるとは驚いた。
 高嶋は他教室の講師であり、私と日頃顔を合わせる人物ではない。年に二回ほど飲み会に呼び、話をする程度である。といって、仲でいえば、比較的親しい部類に入る。よく飲み会ではふたりでタバコの話ばかりしている。
 かれは実直で温厚な性格の持ち主である。ただ、直接きいたことはないが、恋愛をしたことがほとんどないようだ。友人は多く、私よりも外向的であり、複数人でよく遊ぶようだが、いずれも男同士での話である。女性には慣れていない——というよりも、慣れないらしく、それが起因して、恋愛に関しても臆病なのかもしれない。
 そんなかれが、私の夢のなかで覚悟を決めて告白しているのだから、驚かないわけがない。
 その他の人物であるが、まず、真っ赤なドレスを着た女。
 かのじょは実在する人物であるような気がする。セミロングぐらいの髪型をしていた。顔をどうしても思い出せない。スタイルや髪型はうっすらと浮かぶのだが、顔はぼかされている。かのじょの夫も実在し、知り合いだったような気がする。ただ、実在世界でのふたりは夫婦でない。
 かんぜんに虚構なのは、真っ白のワンピースを着た少女である。
 かのじょは実在しない。だれなのか、わからない。人間味があまりなく、正直、死人のような感じもした。かのじょには色がついていなかったかもしれない。とにかく、白いという印象が強い。
 さて、高嶋の告白の結果であるが、成功したのか、失敗したのか、わからない。
 残念なことに、そのまえに目覚めてしまった。