ツメノめ

本内容は「せいじん」を対象とし、一部過激な思想、表現を用いています。

武田泰淳 著『ひかりごけ』書評Ⅳ

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読みやすさ:6
おもしろさ5
意味ぶかさ:8
※10点満点での評価※

 


 真相はこうだ。
 日本では人肉食に対する刑法がないため、船長は是非を問われなかった。
 神経衰弱が認められ、懲役一年。
 その後、人肉食事件の話は地元にて広まり、それが武田泰淳の耳に入る。
 人肉食事件に着想を得た武田泰淳は『ひかりごけ』を執筆。発表。北海道の片田舎で起こった事件は全国的に知られることとなった。
 当時の事件資料は廃棄や焼失などによって大半が喪失しており、また『ひかりごけ』の影響もあったため、船長が船員をつぎつぎと殺し、その肉を食ったという噂が、真実味を帯びて大きく広がってしまう。ながらく歪曲した事実がひとり歩きした。

 船長は一九八九年十二月死去。享年七十五歳。
 船長は人肉食当時の状況をふり返り、なぜ食べてしまったのか、じぶんでも理解できなかったそうである。ただ、食べたことはしっかりと把握しており、またその様子も覚えていた。罪悪感に苛まれ、閻魔大王に裁かれる悪夢を見、警察が訪れた際は、あっさりと容疑を認めた。しかし、軽い罰であることに衝撃を受け、つよい罪悪感をひきずることになった。服役後、崖から飛び降り、自殺未遂。未遂後はひっそりと暮らし、亡くなるそのときまで周囲からの悪評に黙々と耐え忍んだという。

 八百比丘尼も『ひかりごけ』の船長も人肉を食したことで変身した。八尾比丘尼は不老不死となり、『ひかりごけ』の船長は別人となった。しかし、現実はどうか。
 じっさいの船長は人肉食を行ってしまったにもかかわらず、変身しなかった。むしろ変身してしまったのは、不特定多数のまわりの者たちだったようだ。