ツメノめ

本内容は「せいじん」を対象とし、一部過激な思想、表現を用いています。

ジョルジュ・バタイユ 著『供犠的身体毀損とフィンセント・ファン・ゴッホの切断された耳』書評Ⅰ

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読みやすさ:1
おもしろさ3
意味ぶかさ:10
※10点満点での評価※

 


 本篇には、興味深いふたつの引用がある。

 又聞きのようになってしまうが、とにかく、その引用部分の引用からはじめてみよう。
 ひとつ目は、ガストン・Fなる刺繍下絵師の事例である。
《彼は、十二月十一日の朝、メニルモンタン大通りを散歩していたときに、ペール=ラシェーズのところに着くと、太陽を見つめ始め、自分の指を引きちぎれという強制的な命令をその光線から受けて、ためらうことも、いかなる痛みを感じることもなく、左人差し指を歯で噛み、つづけて皮膚、屈筋と伸筋の腱、指節間関節の関節靱帯を噛み切り、そうして引き裂かれた左人差し指の先端を右手でよじり、完全に引きはがした。彼は、警官たちから逃げようとしたが、しかし警官は彼を捕えるのに成功して、病院へ連行した……》
 ふたつ目は、精神病と診断され、精神病院に収容された女性の事例である。
《雇い主に誘惑されて妊娠した三十四歳の女性が、子供を出産したが、その子は生後数日で死亡してしまった。この不幸な女性は、そのときから宗教的な興奮と幻覚を伴う被害妄想に襲われていた。彼女は精神病院に収容された。ある朝、彼女が右目を抜き取ろうとしているのを、守衛の女性が見つけた。左眼球はすでになくなり、空っぽの眼窩からは結膜と疎性結合組織の切れ端、そして脂肪塊が見えていた。右側には、非常に顕著な眼球突出が生じていた……。行為の動機について尋ねられたその狂女は、神の声を聞き、そのしばらく後に炎の男を見た、と断言した。そして、「お前の両耳を私によこせ、自分の頭をかち割れ」とその幻は彼女に言った。壁に自分の頭を打ち付けた後、彼女は両耳を引きちぎろうとして、つづいて両目をえぐり取る決意をした。それを試み始めるや、苦痛は激しいものとなった。しかし、その声は苦痛を乗りこえるように彼女を励まし、この哀れな女性はその試みを諦めることはなかった。彼女は、そのときに気を失ったと主張していて、いかにして左目を完全に引き抜くことを成功したのかを説明できない》
 ジョルジュ・バタイユはこれらの事例を用いて、太陽と衝撃な関係にあったとされるフィンセント・ファン・ゴッホを絡めつつ、宗教的供犠へと論を展開していくが、この評においては、そこまで立ち入らず、これらの事例が示す共通点にだけ注目し、単純な直覚でとどめたい。
 神(あるいは、主)は、太陽である!
 ……この直覚は、あまりに飛躍しすぎであろうか。なんであれば、飛躍しすぎて、間抜けに映っているかもしれない。しかし、気弱な弁明をさせてもらうと、太陽は人類にたいして、多くの恩恵をもたらしてきた。地球に光をもたらし、気温を上昇させ、海を干上がらせて陸地をつくり、植物を繁栄させ、人類がのさばる環境を整えた。これを天地創造と呼ばずして何と呼ぼう? それに、人類という大きな枠でだけ、太陽の世話になっているのではなく、個々人にも太陽そのものは直接影響をあたえている。太陽光線は人間の体内においてビタミンDを生成させる役割をも、もつのだ。ビタミンDが生成されているおかげで、人間は日頃健康に生活できているといっても過言ではない。そして、こんなにも人類へ、個人へ、恩恵をあたえていながら、太陽自体はそれが何でもないかのように見返りをもとめず(そもそも人類のためにやっているわけではないだろう)、ひとがそのご尊顔を拝もうにも眩しさのあまり、直視することがかなわない。大胆に、さらにもう一歩踏みこむのなら、巨大宗教の教祖たちはいずれも太陽を背後に控えさせている。後光とよばれる類だ。これは太陽のおかげで教祖たちが偉大になっているという見方もできなくはない。どうだろう。いよいよもって、神(あるいは、主)は、太陽である、という直覚に一抹の真実味が出てきたのではないだろうか。
 にしても、バタイユはこの直覚に無関心である。太陽に執着しない。
 かれが本稿の俎上にのせている者たちは神(あるいは主)≒太陽を直覚しているが、かれは目を背けている。まるで神(あるいは主)≒太陽を直覚する者たちは狂人であるかのようだ。では、この直覚は正しくないのだろうか。狂ってしまっているのか。そんなことはない。
 梅棹忠夫も『文明の生態史観』において、こう語っている。
《宗教は、いまのところ病気の一種とはかんがえられない。しかし、宗教と病気とは、あるいは、単なるアナロジー以上のつながりをもっているかもしれない。》
 感覚が狂っているのはどちらだろう。
 私(あるいはファン・ゴッホ)か、宗教に染まりきっているバタイユ(欧米の文明)か。